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• 水曜日, 9月 16th, 2026

1 突然 指の隙間から 真っ白いチョークが滑り落ちた そして 教壇の黒い床の上で音を立てて粉々に砕け散った ソレが私の凶事を知らせる合図でした(手紙より)
2 いったい 私の身に何が起こったのか? 右手の指を握りしめても 感覚はゼロでした 放心して 講義を中止して 病院へ
3 白衣を着た若い医師は、パソコンの画面から眼を離して 口を噛みそうな、グロテスクな難病の病名を口にしました。
「残念ですが あなたのDNAは 誕生した時から この難病をかかえていました 手 足 口 眼 耳と あらゆる器官の筋肉が 一気に衰える病気です まだ 薬も治療法もありません いつ発病するか それだけが問題でした」
4 手紙が書けなくなる前に 自分の足で歩けるうちに 自分の口で語れるうちに 是非 一度 あなたに会っておきたいのですが、昔の 神保町の 例の喫茶店で いかがでしょうか? 日曜日 午後二時
5 眼の前に 白髪の 眼鏡をかけた老人がいた 古代文学の研究者 大学教授 「古事記と王家の系譜学」「柿本人麻呂の詩学」の著者 神話学にも触手をのばして「千と千尋の神話学」 コーヒーカップを両手で包みこんで「しばらくでした」と なつかしい昔の詩人の眼になった 西條勉だった
6 40年にもなるか? 秋の稲門祭 南門のスロープ 出店を出して 同人雑誌「あくた」を販売していた 眼の前に 雑誌を手にとって真剣に読む学生「一冊下さい」7号を「プロみたいな作家がいるのですね、完成した文体で「風の貌」重田昇さんですか」(出会い)
7 西條勉も また 北の大地 雪と氷の厳寒の地を舞台にした「長篇詩」を書いた詩人であった。(喫茶店 ラ・ビアンローズにて)拝受
8 神保町の喫茶店で、鞄から取り出した、古びた原稿は、例の、北の長篇詩であった。学者の中には、やはり 詩人が棲んでいた。
9 西條勉の背中が小さくなって、右に左に揺れた「路上で会ったから路上で別れよう」歩ける限り歩いてくれ 水道橋の方へ ポプラ並木の下道を 秋の 10月の 旅へと誘うような夕焼けの下、詩人・西條勉が歩いている(別れ)

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